空室率では見えない「決まる物件/決まらない物件」の違い

――リーシングは“市況”ではなく“設計”で決まる――

「最近は空室率も改善してきていますよね」
「市況は回復基調なので、そろそろ決まるはずだと思っているのですが……」

オフィスビルのリーシングに携わっていると、
オーナーの方からこうした言葉を聞く機会は少なくありません。

確かに、都心部を中心にオフィスマーケット全体を見ると、
数値上の空室率は徐々に改善し、
“市況は悪くない”と評価される局面に入っています。

しかしその一方で、

  • すぐに決まる物件
  • なかなか決まらない物件

が、同じエリア・同じ賃料帯・同じ規模感
はっきりと分かれているのも事実です。

なぜ、このような差が生まれるのでしょうか。
本稿では、空室率というマクロ指標では見えないリーシングの実態をひもときながら、「決まる物件」と「決まらない物件」を分ける本質的な違い、そしてスリースターが考えるLM(リーシングマネジメント)の役割について整理していきます。

空室率は「市場全体の平均値」にすぎない

まず大前提として押さえておきたいのは、空室率は“参考指標”ではあっても、“答え”ではないという点です。

空室率はあくまで、

  • エリア全体
  • グレード別
  • 時点別

平均値を示したものにすぎません。
しかし、実際にテナントが比較検討するのは、

  • 半径数百メートル圏内の競合物件
  • 同じ坪数帯
  • 同じ賃料水準
  • 同じ入居時期

といった、極めてミクロな世界です。

つまり、
「空室率が改善している=自分の物件が決まりやすい」
とは、必ずしもならないのです。

実際、マーケット全体では回復基調にあっても、

  • 一部の物件にだけ問い合わせが集中し
  • そうでない物件は“検討すらされない”

という二極化が、より強く進んでいるのが現在のリーシング環境です。

決まらない物件ほど「市況のせい」にしてしまう

リーシングが長期化している物件ほど、
次のような思考に陥りがちです。

  • 「まだ市況が完全には戻っていないから」
  • 「もう少し様子を見たほうがいい」
  • 「競合も決まっていないようだから」

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

本当に市況だけが理由であれば、
同条件の物件は“同じように”決まらないはずです。

にもかかわらず、現場では

  • 先に決まる物件
  • 後回しにされる物件

が明確に存在します。

この差を生んでいるのは、
市況ではなく、リーシングの“設計”の有無です。

「決まる物件」は募集前から勝負がついている

スリースターでは、リーシングの成否は募集開始前の段階で8割決まっていると考えています。

ここでいう「募集前」とは、

  • 募集条件の整理
  • ターゲットの明確化
  • 競合物件との比較整理
  • 訴求ポイントの設計

といった、水面下の準備段階です。

決まる物件に共通する特徴

決まる物件には、次のような共通点があります。

  • 誰に向けた物件かが明確
  • 競合との違いが一言で説明できる
  • 仲介会社が“紹介しやすい”
  • 初期検討の段階で候補に残りやすい

これらは偶然ではありません。意図的に設計された結果です。

決まらない物件に共通する“リーシングの欠落”

一方で、決まらない物件には次のような特徴が見られます。

  • ターゲットが曖昧
  • 募集条件が「周辺相場なり」
  • 強みも弱みも整理されていない
  • 競合比較がされていない

つまり、
「募集はしているが、リーシングが設計されていない」
状態です。

この場合、仲介会社はどう動くでしょうか。

  • 特に推す理由がない
  • 他に分かりやすい物件があればそちらを紹介する
  • 結果、後回しになる

これは仲介会社の怠慢ではなく、構造的にそうならざるを得ないのです。

リーシングとは「条件調整」ではない

リーシングが長引くと、最初に取られがちな対応が「条件調整」です。

  • 賃料を下げる
  • フリーレントをつける
  • 入居条件を緩和する

もちろん、これらが有効な場面もあります。
しかし、条件調整は最後の手段であるべきです。

なぜなら、条件だけで勝負するリーシングは、消耗戦になるからです。

本来リーシングで考えるべきなのは、

  • なぜ比較で負けているのか
  • なぜ検討初期で落とされているのか
  • テナントは何を不安に思っているのか

という、構造の部分です。

スリースターが考えるLM(リーシングマネジメント)

スリースターのLMは、
単なる「仲介業務」や「客付け」ではありません。

LMとは何か

LM(リーシングマネジメント)とは、

物件を“商品”として捉え、
市場で選ばれる状態を設計・運用すること

だと考えています。

具体的には、

  • 市況・競合・テナント動向の分析
  • ターゲット設定
  • 募集条件・賃料戦略の設計
  • 訴求ポイントの整理
  • 募集後の反響分析と改善

を、一連のプロセスとして管理します。

LMが入ることで何が変わるのか

LMが機能すると、リーシングは次のように変わります。

① 募集開始前に「勝ち筋」が見える

闇雲に募集するのではなく、
「この条件なら、この層に刺さる」という仮説を立ててスタートできます。

② 仲介会社の動きが変わる

物件の説明がしやすくなり、
「なぜこの物件を勧めるのか」が明確になります。

③ 条件調整が“戦略”になる

下げる・付ける、ではなく
「どこを調整すれば決まるか」を狙って動けます。

空室を埋めることと、資産価値を守ることは同じではない

短期的に空室を埋めることと、中長期で資産価値を守ることは、必ずしも一致しません。

安易な条件変更は、

  • 賃料水準の毀損
  • 次回募集への悪影響
  • 出口価値の低下

につながる可能性があります。

だからこそ、リーシングは“管理”ではなく“マネジメント”が必要なのです。

市況が良いときほど、LMの差が出る

皮肉なことに、市況が良いときほどリーシングの差は顕在化します。

なぜなら、

  • 何もしなくても決まる物件
  • 設計しなければ決まらない物件

が、よりはっきり分かれるからです。

空室率が改善している今こそ、
「なぜ決まっているのか」
「なぜ決まっていないのか」
を冷静に見直すタイミングだと言えるでしょう。

リーシングを「運」や「景気」に任せないために

リーシングは、景気や市況の影響を受けるのは事実です。

しかし、すべてを外部要因のせいにしてしまった瞬間、改善は止まります。

  • 物件の見せ方
  • 条件の組み方
  • ターゲットの設定
  • 仲介との関係性

これらは、すべてオーナー側でコントロール可能です。

スリースターは、リーシングを「結果論」にしないためのLMを通じて、決まる必然性をつくることを目指しています。

おわりに

―― 空室率の先を見るリーシングへ ――

空室率は、確かに重要な指標です。
しかし、それだけを見ていては、自分の物件がなぜ決まらないのかは見えてきません。

必要なのは、数字の裏側にある“選ばれる理由”を設計する視点です。

リーシングを
「募集する作業」から
「価値を設計し、運用する戦略」へ。

その転換こそが、これからのオフィスオーナーに求められる姿勢ではないでしょうか。

都内のセットアップオフィス市場の動向を分かりやすく把握できる「マーケットレポート」を毎月配信しています。最新の平均賃料や募集件数の推移、成約実績をデータに基づいて掲載。セットアップ化を検討しているオーナー様にとって、適切な賃料設定等の経営判断の参考となる情報をタイムリーにご提供します。

この記事を書いた人

福田勇人

オフィス仲介歴20年以上、オフィス不動産に関する専門家です。2002年に新卒でオフィス仲介会社に入社し、オフィス物件の仲介に携わりました。その後、2012年にスリースターに入社し、仲介営業としての経験を積んでまいりました。現在は広報やマーケティングを担当し、オフィス不動産における情報を提供し、お客様に最適なソリューションを提案する役割を果たしています。